寄り道

薬に頼れない未来がやってくる?

汐音屋 山崎ちひろ

漢方薬と現代医学の医薬品。遠くない未来、日本ではなかなか思うように使えない事態に陥るかもしれません。

自分のからだを自分で守るために何をどう選択していくか、考えるきっかけにしていただければと思い、危機感をもつような現状をざっとまとめました。

伸び盛りの漢方薬に迫る危機

ますます脚光を浴びる漢方薬

2022年は例年になく漢方に注目が集まった年でした。新型コロナの蔓延で供給不足になった解熱剤の代わりに葛根湯等の需要が急増(それに伴い多くの漢方薬について22年8月〜今も出荷調整が続いています)。漢方系薬剤師さんたちの精力的な活躍でメディアで見かける漢方・中医学の話題もここ数年でぐんと増えました。体質改善や未病対策だけでなく健康寿命を伸ばす切り札としても熱い視線が向けられ、漢方薬の認知度やポテンシャルへの期待は高まる一方です。

現代医学がまだ十分な手段を有していない病へのアプローチやもともとからだに備わっている機能を高めるケア、鍼灸よりも経口の漢方薬の方が有効に作用するケースなど、他のものには代えがたい漢方薬のちからを私自身目の当たりにしてきて、もっと身近に、もっと効果的に使われるものになったらとずっと願ってきました。

漢方薬に迫る危機

けれど今は「いつまで漢方薬の力を借りられるだろうか」と疑問に思っています。大きな理由は原料生薬の安定確保に複数のリスクがあり、簡単には解決できない問題が山積しているためです。

中国一国に供給を頼っている

漢方薬はそのほとんどが複数の生薬で構成されていて、たった1つを変えただけでその効果が変わってしまうものですが、日本で使われている生薬の8割は中国からの輸入で、国内産はわずか1割です。以下、日漢協(日本漢方生薬製剤協会)に加盟する全65社を対象とする2017,2018年度対象の大規模調査データに基づき、そのリスクを具体的に見ていきます。

総使用量9割をカバーする上位60品目を詳しく見ると、中国のシェアが90%以上のものは過半数、シェア50%以上のものになると9割近く。漢方薬の7割に配合される使用量No.1のカンゾウは97%が中国産、国内産はゼロです。実質、中国からの供給がなければ日本の漢方薬はまったく成り立ちません。原料不足ではなく、あくまで需要の急増で出荷調整が続いている今ですら医療現場は混乱している状況です。西洋薬では代替が利かない薬も多いため当然のことです。

けれど、こうした中国頼みの状況は、実はもう何十年と変わっていません。鎖国時代は各藩で生薬の栽培が奨励されるなどして、国内でも(すべてではなくとも)さまざまな生薬を自給していたようですが、明治初期〜約1世紀にわたって公の医学(医師免許に必要な科目や教育)から漢方が排除されたため、一部の品目を残してその火は消えてしまいました。*当時は種痘や戦争による外傷の治療に優れる西洋医学が重視されたetc

日漢協が原料の安定確保のための最重要策として挙げているのも当然、中国との友好関係の維持発展ですが、ウクライナ情勢を機に中国による有事への警戒感も増しています。万が一でも何らかの事態が起こり経済制裁や輸出制限が行われて原料が入らなくなったら一体どうなるでしょうか。

資源の枯渇や価格の高騰

有事はあくまで仮定の話ですが、もっとリアルに迫っている危機が資源の枯渇です。野生種の乱獲や自然破壊・気候変動に伴って資源の枯渇や質の低下が起きています。中国国内でのニーズも年々大きく伸びているため輸出制限がかかっているものがあったり、価格が倍増していたり、稀少な生薬は投機対象となって価格高騰に拍車がかかったりしている状況は長く続いています。

栽培種育成の難しさ

これまで野生種だったものから栽培種を育成したり、輸入に頼ってきたものを国内でも栽培したりできないか、という動きがまったくないということではありませんが難題は山積みです。栽培に適した土地かどうか、医薬品としての基準を満たす品質のものができるかどうか、実際に栽培してそれを評価するだけでも年単位の時間がかかり、できたとして採算がとれるかはまた別の話、という状況です。

土地や種の問題だけでなく、そもそも収穫などに必要な機械が国内に無いものもあるそう。土地の広さなど異なる環境のためただ輸入してすむわけでもなく日本に適したものを新たに開発しなければならないという事情もあります。

こうした問題を解決するために研究や調査、試験は行われているものの、国として十分なバックアップがなされれている訳ではなく、根本的な解決には気の遠くなるような年月がかかりそうです。それまで、今の供給体制を維持できるかどうか。今の国際情勢や自然環境の急激な変化を見ていると、そんなに長くは持たないのではないかと思います。

最新医療から置いていかれる日本

最新医療から遅れを取り始めた日本

世界的に見て日本の医療の質は高く、私たちはその恩恵を受けてきました。ただし、これからもそれが続くとは限りません。人口の大幅な減少やGDPの低下など日本の著しい国力低下はこれからの医療の質にまで及ぶことが予想されます。

医薬品業界で危機感をもたれている問題が「ドラッグ・ラグ」。欧米ですでに承認され使われている薬が日本に入ってくるまで、これまでも時間を要することはありましたが、今後はその状況が一層加速していく見込みです。

難治性疾患・希少疾病に光をもたらすバイオ医薬品

医薬品市場において、近年頭角を現してきているのがバイオ医薬品です。

バイオ医薬品とは、細胞培養や遺伝子組換技術などバイオテクノロジーを用いて開発・製造される生物由来の医薬品。抗がん、抗ウイルス、免疫異常、認知症など、現在治療法の確立が待ち望まれている難治性の疾患や希少疾病、これから増えるだろう疾患に不可欠とされています。(COVID-19のワクチンもその一つです)

バイオ医薬品は化学合成された従来の医薬品と比べてその構造がはるかに複雑なのが特徴です。それを可能にするのが微生物や細胞がもつたんぱく質の合成や遺伝子の作用などのはたらき。こうしたことは人工的に同じことを再現するのは極めて難しく、従来の医薬品では治療ができなかった病の克服に光をもたらしています。

バイオ医薬品業界から敬遠される日本

バイオ医薬品の開発や世界市場での売上げは急成長しているにもからず、日本で承認されていないものが多いのが現状です。それはなぜか。手間だけかかって開発・製造コストや必要な収益に見合わないからです。

承認申請のためには効果や安全性の証明が必要ですが、人種によって薬の効き目は多少異なるため日本で使う薬には日本の人を対象とした試験が課されます。けれど、そうした各種試験を行う対象に日本が入らなかったり、入ったとしてもその段階が遅くなることで、他国では使えている薬が使えないという事態が起こっているのです。

バイオ医薬品業界で活躍しているのは海外の新興企業。日本法人や拠点をもたず、新薬承認までの手続きが複雑で費用もかかる日本は優先度が低くなります。おまけに、日本の医薬品市場は魅力も将来性もない。国の政策として薬価が不当に低く抑えられており、人口も近い将来大幅に減少するため薄利多売で賄うことも当然できません。従来よりも製造コストが跳ね上がるバイオ医薬品を提供するメリットが少ないのです。

難治性の疾患、希少な疾病への治療法が見つかって他国では助かる人たちが出てきても、日本ではその恩恵にあずかれない未来が待っているかもしれません。

*参考
ドラッグ・ラグ:なぜ、未承認薬が増えているのか? | 医薬産業政策研究所
新興バイオ医薬品企業の台頭、新たなドラッグ・ラグ生む…日本に開発を呼び込むためには
日本市場「地盤沈下」に危機感…薬価制度はどうあるべきか「有識者検討会」初会合で語られたこと

制限のある未来を生きていくために

国の医療政策が失敗したときに自分を守れるのか

国が薬価を低く定めているのはやはり国民皆保険で医療費を一部国が負担しているからですよね。歳出を減らすための手段です。

けれど、今後そのことが医療の選択肢の幅を狭めてしまう可能性が高いのです。国内の医薬品メーカーですらやっていけないと日本市場を後回しにし始めています。漢方薬業界では生薬の価格高騰で製造をやめるメーカーも出てきました。バイオ医薬品の開発製造に至っては国からの予算が抑えられているため、海外との格差は開く一方でしょう。

アメリカでは保険に入れるのは一部で、簡単に病院にかかれないのは有名ですね。それはそれで貧富の差がいのちの格差を生むので問題ですが、むやみに病院にかかったり、薬を安易に処方したりすることには抑制がかかります。

人口も経済にも先細りしていく日本では最新医療へのアクセスや医療制度の維持のため積極的に健康維持重視へと舵を切らないと立ちゆかない未来がもう見えています。けれど、それを国に求めても実効性のある変化は難しいでしょう。病気になったら医者にかかれば治してもらえるというのはもはや幻想になる未来。だからこそ、自分の健康はできるかぎり自分で保つ意識が必要です。

食糧やエネルギーが限られる時代を生きる

人口80億時代は自前でどれだけまかなえるかが問われる

わずか30年前、地球の人口は50億人を超えたくらいでした。それが今や80億人を突破しました(2022年11月時点)。けれど、それに見合う程の食糧やエネルギーを増産する方法は開発されていません。むしろ、地球資源の枯渇は今なお解決できない課題として重くのしかかっています。

今までそれに直面することから避けてこられたのは日本が戦後急速に伸ばし(朝鮮戦争の特需があったことは忘れてはならないと思います)、これまでかろうじて維持してきた経済力です。これからは小さくなっていくお財布と人のちからでやっていくしかありません。いつまでも限られた国土と資源を他国のもので大量に補うことはできません。

自分の持ち物でどれだけやっていけるかが問われる時代。当然、資源も人も、ムダにして疲弊させている場合ではありません。(ましてや戦争など絶対にできません。)

ミニマムな資源と努力で最大の効果をうむ習慣を身につけよう

健康だって同じです。すっかり忘れられていた、いつの時代も変わらない当たり前のことですが、限られたいのちと代わりのないこの肉体でやっていくしかありません。そこで役に立つのが季節とからだのしくみを学び、習慣にしていくこと。

スローエイジング講座などのベースにしている健康維持のための知恵はもともと食糧もエネルギーも限られた時代に最小の資源や努力で最大の効果を発揮するように生まれ磨かれてきています。

生活習慣を調え、負担を減らして大事にする。からだと季節のしくみを学び、休養と活動のバランスや食事の活かし方などが習慣として身につくと健康維持に必要なコスト(食糧やエネルギー)のムダも賢く減らせます。

災害などの非常時もまた、食糧やエネルギーが突然限られる事態です。習慣としてからだに落とし込んだ知恵があれば、これからどんな時代、どんな事態が起こり、人の手を十分に借りられない状況に陥っても自分でからだを守り、たくましく生きていくベースになります。

しぶといいのちをすこやかに全うするために

いのちは最後まで生きようとする。もちろん、肉体も最後の最後には終焉を受け入れていくときが来るけれど、いのちには計り知れない力がある。脆いけれどしぶとい。痛みなどのサインを諦めずに出し続けて、こちらが応えるのを待っている。そしてなかなか手放してはくれない。それなら、できるかぎりその声を聞きながら仲良くやっていく方が良い。

今までサポートをさせていただいてきた方々の奮闘ぶり、その努力が実るのも見てきた私はこのように思います。どう考えたって、どうせならすこやかな方が楽、です。

健康への意識は本当に個人差が大きく、根本的に問題が解消できない方法でやったつもりになっている人も多いです。何かを加えることはわりと簡単。けれど、今まで負担になっていた生活習慣を変えずに良くなることはありません

まずは生活を見直した上で、自分の努力では及ばずどうしても助けが必要なところだけ漢方薬など今はまだ使えるものの力を借りて安定させる。そんなアクションを起こすタイムリミットはそろそろ迫ってきていると思います。

私は健康でいようと自ら行動できる、必要な時は努力ができる人と歩みたい。PDCAを回しながら少しずつでも確かに楽に、元気になる一人一人に合った方法を一緒に見つけていくために、今まで以上に学び、寄り添い、伝える努力をします。

2023年、あなたはどんなアクションを起こし、どのように日々を重ねていきますか?

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